【傑作】96時間_娘のためなら誰でも殺す(ネタバレあり・感想・解説)

軍隊・エージェント
軍隊・エージェント

(2008年 フランス・アメリカ
元CIA工作員のパパが、家族のためならいかなる暴力をも厭わないことで人気となったシリーズの第一弾。『コマンドー』(1985年)とほぼ同じ話に、当時は演技派として認識されていたリーアム・ニーソンを起用したプロデューサーの慧眼が光る。

感想

劇場公開時よりお気に入りの作品だが、改めて見てもよくできたアクション映画だと思う。

話は至ってシンプル。

フランス旅行に出かけた娘が人身売買組織に誘拐され、元CIA工作員の父親は持てる能力すべてを行使して娘の奪還を果たす。邦題の『96時間』とは、誘拐事件で被害者の足取りを追える猶予時間のことを指すらしい。

家族を誘拐された主人公が鬼になる作品は山のように存在するが(『コマンドー』(1985年)『身代金』(1996年)『ブレーキ・ダウン』(1997年)、『フライトプラン』(2007年)etc…)、本作の特殊性は、主人公が元CIA工作員という点にある。

娘との電話中に、その滞在先であるアパートに押し入ってくる犯罪者たち。

電話口から状況を察したミルズ(リーアム・ニーソン)は、即座に通話内容を録音。「お前は捕まるが、パパが必ず助けに行く。犯人の特徴を電話に向かって可能な限り叫べ」と的確な指示を出す。

通常、このような事態に陥れば、捕まらないような動きを娘に指示したり、「パパはお前を愛してる」とか言ったりするものだが、ミルズは「プロが相手では逃げようがない」という冷酷な事実を娘にも自分にも突きつけたうえで、後日の追跡のための情報を可能な限り収集しようとする。恐ろしく冷静な状況判断だ。

1秒たりとも無駄にせず、娘の生存可能性を極限にまで高めようとするこのやりとりで、主人公がとんでもない腕利きであることが伝わってくる。

そこから先はひたすらに行動あるのみ。

フランスに上陸したミルズは、行く先々で死体の山を築き上げる。はっきりと死亡を確認されたもので35人、生死不明のものまでを含めると都合38人を、90分程度の本編で殺しまくる。

邪魔をする者は殺す。たまたまその場に居た悪党っぽい奴も殺す。目当ての情報を聞き出せた事件関係者はとりわけ惨たらしい方法で殺す。

協力を拒まれればかつての友人にだって銃を向け、自分をもてなしてくれた奥さんにも躊躇せず発砲する。

もう無茶苦茶なのだが、かといって「あれは嘘だ」でお馴染み『コマンドー』(1985年)のようなコメディっぽさもない。

この辺りが、アクション俳優ではなく演技派リーアム・ニーソンを起用したことの成果だろう。

現在でこそリーアム・ニーソンと言えばB級アクションで暴れまくる長身高齢者というパブリックイメージとなっているが、本作以前にはアクション映画への出演歴がほとんどなく、主にドラマで活躍する紛うことなき名優だった。

もともと本作にキャスティングされていたのはジェフ・ブリッジスだったが、その降板によってニーソンにお鉢が回ってきた。

可能な限りスタントを自らこなすなど、受けた仕事は律義に頑張るニーソンだったが、とはいえニーソン自身も本作がヒットするとは考えておらず、劇場公開は見送られてDVDスルーになるだろうと思っていたらしい。

彼にとって本作はキャリアの脇道程度の扱いだったのだが、それほどまでに意表を突いたキャスティングが、見事なまでに脚本との間で化学反応を起こしている。

怒り狂った親父が行く先々で殺人技を炸裂させる物語は、リーアム・ニーソンによる哀愁溢れる演技によって、エモーションの爆発として表現される。

情感と暴力の完全一致。アクション映画が目指すべき地平に本作はいると言うと言い過ぎだろうか。

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