【駄作】バックドラフト2_消火活動が描かれないダメ続編(ネタバレあり・感想・解説)

災害・パニック
災害・パニック

(2019年 アメリカ)
このサイトでレビューしてきた作品の中でも最低かもしれないほどの低クォリティ映画であり、本当に見る価値がありません。キャラメルコーンの袋の底に残った豆程度の価値すらありません。もし時間が有り余っていたとしても見ることをお勧めしない逸品です。

© 2019 Universal Studios

あらすじ

前作の主人公スティーヴン・マクフレイの息子ショーン(ジョー・アンダーソン)は、父と同じくシカゴ消防署の17分署に勤務しており、放火捜査官として活動している。ハロウィンの日、仮装した子供達がバックドラフト火災により死亡する事件が起こり、ショーンは放火の線での捜査を開始する。

スタッフ・キャスト

前作のプロデューサー達が一応再結集

『バックドラフト』(1991年)はラファエラ・デ・ラウレンティスとブライアン・グレイザーという2人の大物プロデューサーが関わった映画でしたが、本作においてもこの二人は残っています。

加えて、前作の監督ロン・ハワードも製作総指揮としてクレジットされており(名義貸しっぽくはありますが…)、Vシネ扱いという辺りからどことなくパチモン臭さが漂うものの、実はちゃんとした続編であると言えます。

監督は『アポロ18』(2011年)のゴンサーロ・ロペス=ガイェゴ

1973年マドリード出身。1994年に短編映画でデビューし、スペイン映画界で活動した後に、『アポロ18』(2011年)でハリウッドに進出しました。

『アポロ18』は当時流行していたファウンドフッテージものの体裁をとった珍しい宇宙映画であり、ガイェゴ監督は低予算ながら素晴らしいルックスを作り上げていました。ただし話が悪かったのか、死ぬほどつまらないという欠点はあったのですが。

あれから8年、本作でもガイェゴは一部のビジュアルは素晴らしいのだが、全体的につまらないという傾向を引きずり続けています。

脚本は前作と同じくグレゴリー・ワイデン

1958年LA出身。3年間消防士として活動し、その後にUCLAの脚本家養成プログラムに入学。在学中に書いた”Shadow Clan”という脚本が映画会社に買い取られ、後にラッセル・マルケイ監督の『ハイランダー 悪魔の戦士』(1986年)として映画化されました。

消防士として勤務していた時にバックドラフトで同僚を亡くした経験に着想を得て、前作『バックドラフト』(1991年)を執筆しました。

その後はクリストファー・ウォーケン主演の『ゴッド・アーミー/悪の天使』(1994年)で監督デビューしカルト的な人気を博したのですが、キャリアはそこで一旦途絶え、しばらくはその名前がクレジットされるような仕事をしていませんでした。

本作で久々に表舞台に復帰し、現在はテレビシリーズ『ナルコス』で知られるダグ・ミロと共にソードアクション”Yasuke”の制作準備中とのこと。16世紀の日本を舞台に、初のアフリカ系の侍にして織田信長の家臣である弥助が明智光秀と戦う話になるようで、期待と不安が半々のような企画ですね。

主演は『アクロス・ザ・ユニバース』(2007年)のジョー・アンダーソン

1982年イングランド出身。両親ともに俳優で、自身も子役として活動していました。高評価を得たミュージカル映画『アクロス・ザ・ユニバース』(2007年)に出演し、これが代表作となりました。

前作より消防士一家マカフレイ家のメンバーを演じるのは、芸能一家もしくは子役上がりで骨の髄まで家業が浸透している俳優と決まっているので、その条件に見合ったアンダーソンがショーン・マカフレイ役にキャスティングされたものと思います。

ウィリアム・ボールドウィンとドナルド・サザーランドが続投

前作からは主人公ブライアン・マカフレイ役のウィリアム・ボールドウィンと、放火犯ロナルド・バーテル役のドナルド・サザーランドが続投しています。

ウィリアム・ボールドウィンは前作でのスリムな姿からは一転してかなり貫禄が出ており、顔の大きさは倍くらいになっています。時の流れって残酷ですね。こうした例を見ると、同世代でありながらいまだにセクシーと言われ続けているトム・クルーズやブラッド・ピットがいかに見た目を維持する努力をしているかが分かります。

一方、ドナルド・サザーランドにはあまり変わった様子がなく、30年近く経ってもいまだに服役中というロナルド・バーテルの設定とも相まって、一人だけ時が止まっているかのような感覚を抱かされます。

登場人物

  • ショーン・マカフレイ(ジョー・アンダーソン):前作でカート・ラッセルが演じたスティーヴンの息子であり、父と同じシカゴ17分署で放火調査官をしている。放火調査官としては優秀だが、一匹狼タイプで問題行動も多いことから、周囲からは叔父ブライアンの政治力で生かされていると見られている。少年期に自宅に火を放った過去を持つ。
  • ブライアン・マカフレイ(ウィリアム・ボールドウィン):ショーンの叔父で、シカゴ消防署の副署長。消防士としての尊敬を集める人物であるが、ショーンとの関係は良好ではない。
  • マギー・レニング(アリーシャ・ベイリー):優秀な消防士だったものの、ある事情から閑職である放火調査班に異動となり、ショーンの部下となった。ショーンと共に子供達が犠牲になった放火事件の捜査に乗り出す。
  • ロナルド・バーテル(ドナルド・サザーランド):シカゴ史上最悪の放火魔と呼ばれる人物で、前作から引き続き服役中。前作と同じく、捜査に行き詰った放火調査官に意見を求められる。

感想

ダメ続編界の新星登場

『ポセイドン・アドベンチャー2』(1979年)『プレデター2』(1990年)『スピード2』(1997年)など、ヒット作には不名誉な続編が製作されることがあります。

ただし、そうしたダメ続編であっても何となくやりたかったことは見えてきたり、どうしても製作したいスタジオからの無茶を飲まざるを得なかった現場の葛藤が透けて見えてきたりもするのですが、本作についてはそれらとは別次元のヤバさがありました。

前作でウケた要素をほぼ捨て去り、蛇足と考えられた部分を目いっぱい拡大するという間違えまくった方針。半減どころか10分1くらいになった見せ場。話が全然頭に入ってこないド下手な語り口。

驚きなのが前作の脚本家グレゴリー・ワイデンが本作も執筆しており、ロン・ハワード、ブライアン・グレイザー、ラファエラ・デ・ラウレンティスら製作陣も一応再結集し(名義貸しっぽくはありますが)、前作と同じメンバーが揃っているのにこの体たらくであるということです。

前作から29年もインターバルが空いていることから、スタジオから製作を強要されたということもなさそうなのですが、それにも関わらずこうした無駄な代物をオリジナルメンバーが製作するというのは、なかなか前例のないことではないでしょうか。

世代交代の物語になっていない

前作の登場人物スティーヴン・マカフレイ(カート・ラッセル)の息子ショーン(ジョー・アンダーソン)が主人公とくれば、『クリード チャンプを継ぐ男』(2015年)のような世代交代の話にすることが定石ではないでしょうか。前作の主人公がメンターとなり、息子世代を育て上げるという。

しかし本作はその方針をとっていません。主人公ショーンは放火調査官としてすでに実績を築いており、職業人として出来上がっているのです。こうした定石崩しのために作品は出足から描くべきドラマを見失い、迷走気味となります。

前作から29年も空いてしまっており、ショーンを新人隊員とするには年齢的に無理があったためにこのようなドラマになったものと推測されますが、ここまで中途半端になるくらいならショーンを出さず、ブライアンが赤の他人の後進を育成する話にしてしまうという選択肢もあったのではないでしょうか。

消火活動ではなく捜査活動がメイン

前作は消火活動こそが見せ場でしたが、本作ではその要素がスッパリと切り落とされています。

冒頭が実に象徴的なのですが、主人公ショーン・マカフレイ(ジョー・アンダーソン)は火災現場において燃える建物からは背を向け、集まった野次馬の中に怪しい者がいないかを探しています。本作では捜査活動こそがメインとされているのです。

しかし『バックドラフト』(1991年)の続編と言われて、捜査活動を期待する観客がどれほどいるのでしょうか。前作において観客からウケた要素を捨て去り、蛇足と考えられた要素をブローアップするという基本方針が間違えまくっています。

またその捜査活動が面白ければ『エイリアン2』(1986年)並みのジャンルの転向例として評価もできるのですが、まったく面白くないので話になりません。

ハロウィンの日、ある邸宅を訪れた子供達がバックドラフト現象により死亡。放火調査官のショーンは何者かによる放火であると睨んで捜査を開始するのですが、その邸宅の持ち主はミサイルを開発している会社の経営者であり、経営難から画期的な新型ミサイルを外国に売ろうとしていたことが判明。目くらましのためにビジネス放火犯に依頼して自宅を燃やしたとのことでした。

って、こんな話を『バックドラフト』の続編でやる必要があったのかは甚だ疑問だし、捜査の過程には何の面白みもありません。

謎解きは動的に展開されず、肝心な情報はダラダラとセリフで説明されるような状態。もっとも重要なミサイル輸出に係る部分に至っては、突如登場したFBI捜査官が立ち話で説明し始めるという物凄いことになっています。

その雑な説明方法も然ることながら、国家安全保障に関わる情報を、一介の放火調査官に向かってベラベラと話すFBI捜査官ってどうなんだろうかと呆気にとられてしまいました。

雑多な構成要素をまとめることに失敗している

本作は放火捜査を軸にして、実に様々なドラマが織り込まれているのですが、そのどれ一つとしてうまく消化されていません。

  1. 実は放火犯と紙一重であるショーンが自身の闇と向き合う物語
  2. 一匹狼のショーンがチームワークを覚える物語
  3. ショーンがメンターとなって新人マギー・レニング(アリーシャ・ベイリー)を教育する物語
  4. 父スティーヴンの殉職を巡って確執を抱えるショーンと叔父ブライアンの和解の物語

こうして振り返ってみると、本作のドラマのテーマは心の闇だったように感じます。ショーンは炎に魅せられた危険な男だし、彼の下に付くレニーもまた、火災現場の遺留品を盗むという万引き依存症のような症状のために花型チームを追われた過去を持つ訳アリ。

この二人にシカゴ史上最悪の放火犯ロナルド・バーテル(ドナルド・サザーランド)という突き抜けた男が絡んできて、自身の闇に向き合わざるを得なくなる物語として全体が設計されていたのでしょう。

しかし監督の実力不足ゆえかそうした難しい構成要素はことごとく不完全であり、特に心に迫ってくるものがありませんでした。

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