【駄作】クライシス2050_映画の出来がクライシス(ネタバレあり・感想・解説)

SF・ファンタジー
SF・ファンタジー

(1990年 日本・アメリカ)
バブル期の日本が金に糸目をつけずに作ったSF超大作。標準的なハリウッド映画2本分の予算をかけて、よくここまで面白くない映画を作れたもんだと感心するほどの仕上がりで、関係者の誰にもやる気がなく、ただただ金に人が群がっただけの現場だったんだろうと推測する。

感想

製作費5500万ドルのSF超大作

バブル期のNHKが大金を投じてハリウッドに作らせたSF大作。

特殊効果に詳しい人物を探していたNHKが『ゴーストバスターズ』(1984年)『ダイ・ハード』(1988年)のリチャード・エドランドとの伝手を持ち、その流れでエドランドは本作のプロデューサーに就任。

エドランドはプロデューサーの立場で自分の会社に視覚効果を発注するという、不正のにおいがプンプンしてくる現場だった。

その結果、製作費は5500万ドルにものぼった。前年の大ヒット作『バットマン』(1989年)の製作費が3500万ドル、同年の大ヒット作『レッド・オクトーバーを追え!」(1990年)が3000万ドルなので、本作の製作費がいかに飛び抜けたものだったことが分かる。

公開時は小学生だったが、結構な宣伝がなされていたと記憶している。

ちょっと興味はあったけど、大人向けのハードSFであることを包み隠していなかったので小坊にとってはハードルが高く、劇場での鑑賞は見送った。

数年後、金曜ロードショーで放送されたのを観たけど、地味で複雑で分かりづらく、全くと言っていいほど楽しめなかった。

その後に本作のことを思い出すことはなかったが、これが消したい記憶だったことはNHKも同様だったようで、公開後のソフトリリースと地上波放送を除くと、見事なまでに「そんな映画ありましたっけ?」状態が続いている。

現在に至ってもDVDやBlu-rayでのリリースはないのだが、そうは言っても視聴者からふんだくった受信料を投資して作った映画なので、公衆が見られる状態にはしておくのは義務だろうとは思うが。

そんなこんなで現在は鑑賞困難作品と言ってもいい本作だけど、駿河屋で当時もののレーザーディスクが500円で販売されているのを発見。他に買いたいソフトと組み合わせると送料も無料になったので、ありがたく購入させていただいた。

30年以上前のソフトであるうえに、テレシネ(フィルム映像をビデオに変換する作業)のクォリティが低いことでお馴染み松竹富士のリリースなので、画質は壊滅的。そもそも期待はしていなかったけど、ここまで酷いとは思わなかった。

宇宙船のドラマが分かりづらい

時は2050年。地球が太陽フレアに焼かれるという危機に対し、太陽活動の正常化を図るべく宇宙船ヘリオスが出航するというのがざっくりとしたあらすじ。

骨格となる話は実に単純なのだが、これだけでは2時間尺にならなかったのか余計な枝葉がいろいろとくっつけられた結果、まったくまとまりのない作品となった。

ヘリオス船内のドラマは、一体誰が主人公なのかよく分からない。

群像劇と言えば聞こえはいいけど、何を考えているのか整理されていないキャラクター達がワイワイやっているだけなので、観客の視点までが定まらない。

このミッションで一番重要なのは反物質爆弾を太陽に投下するオペレーションで、どういうわけだかコンピューターだと信用できないので生身のパイロットが手動でやる必要があるらしい。

で、最初はいかにも主人公然とした白人キャラが選抜されるんだけど、そいつは「怖くていやなだぁ」と言って辞退し(だったらヘリオスに乗るなよ)、「なら俺やります!」と言って別所哲也が挙手する。

「じゃあお前で」と実に安易に決定するんだけど、こんな適当な決め方をするくらいならコンピューターにやらせた方が良くないか?

通常の映画なら、いったんは辞退した白人パイロットがなんやかんやで使命感に目覚め、最終的にはミッションを引き受けるという展開を迎えると思うんだけど、こいつが本当にフェードアウトしてしまうので、この脚本は一体何がやりたいんだかよく分からない。

では新パイロット別所哲也にスポットが当てられるのかというとそうでもなく、なぜこいつが特攻に近いミッションを嬉々として引き受けたのかは最後までよく分からない。

その他、船長とか美人科学者(実はサイボーグ)なんかも登場するんだけど、どのキャラクターにも味わい深さがない。

また、固有名詞もいろいろ出てきて分かりづらい。

スカイタウンと呼ばれる宇宙ステーションを出港したヘリオスは、小惑星ニュートリニティに反物質爆弾を受け取りにいく。反物質爆弾はフレディと呼ばれており、それは探査船ラーに積まれていて、ヘリオスが太陽に到着すると、パイロットはラーを操縦して爆弾を投下することとなる。

・・・どうだろう、お分かりになっただろうか?

ダウンタウンの「緑のカバンに500万入れて、白の紙で黄色のカバンゆーて書きながら・・・」という漫才を思い出した。

ダウンタウンの方はネタだけど、こちらはマジでやっているのだから凄い。

任務放棄するチャールトン・ヘストン

ヘリオス船内の話だけでは尺が持たなかったのか、なぜか地球上のエピソードにも半分の時間が割かれている。

冒頭にて、砂漠に飛行機が墜落する。命からがら脱出したのはヘリオス号船長の一人息子であり、士官学校の生徒であるマイク(コリン・ネメック)。

マイクは父親のいる宇宙ステーションに上がろうとして士官学校を無断で抜け出したんだけど、その道中で墜落トラブルに遭った。

で、偶然出会ったトラビス(ジャック・パランス)という老人の助けを借りながらシャトルの発着場を目指すという物語が、割とがっつり目に挿入されるんだけど、まぁこれがヘリオス号のドラマ以上に面白くない。

地球全体が太陽フレアに焼かれるかもという状況で、士官学校を脱走した生徒がどうなろうが知ったこっちゃないし、目指す発着場までどの程度の距離があるのか、その間にどんな難所があるのかが整理されていないので、ハラハラもドキドキもしない。

そしてマイクの祖父(=ヘリオス船長の父)は米宇宙軍の提督で、これを演じているのは往年の名優チャールトン・ヘストンなんだけど、なんとこの提督、地球の存亡がかかったヘリオス・ミッションをほっぽり出して、孫の捜索のため地球に降りてしまう。

ミッションの陣頭指揮こそ提督自ら行うべきで、砂漠における人の捜索なんて自分でやる必要がない。それこそ提督の権力を使って大部隊を動員して探させればいいのに、なぜミッションの方を放棄してしまうのか。

この地上パートの存在がヘリオス側のミッションを相対的に軽くする方向に働いており、ドラマの組み合わせは最悪だったと思う。

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