(1985年 アメリカ)
チャック・ノリスの映画なのに、サスペンスアクションとして真っ当に面白い。大人向けの脚本を実に慣れた手際でまとめていくアンドリュー・デイヴィス監督の手腕と、中肉中背のアクションヒーロー チャック・ノリスが奇跡の化学反応を起こしている。

感想
昔ゴールデン洋画劇場で見たような気がするけど、さほど印象には残っていない。
何せ当時は、『コマンドー』(1985年)やら『ランボー2』(1985年)やら『ロッキー4』(1985年)やらがテレビ洋画劇場でヘビロテされていた時代で、中肉中背のアクションスター チャック・ノリスの渋い魅力など、小坊に伝わるわけがなかったのだ。
こうして並べてみて驚くのが、すべて1985年の映画だということだ。B級アクション映画史上、もっとも重要な年と言えるのではなかろうか。
そんなB級アクション全盛の1980年代においても、イマイチ弾けきらなかったのがチャック・ノリス。
中肉中背にヒゲ面という見た目の野暮ったさに加え、メナハム・ゴーラン率いるキャノン・フィルムズの看板スターだったことも、そのキャリアのリミッターになっていたように思う。
メナハム・ゴーランと言えば「早い!安い!」が売りのB級プロデューサーで、ベトナム戦争ものが流行っていれば『地獄のヒーロー』(1984年)を、ダンス映画が流行っていれば『ブレイクダンス』(1984年)をちゃちゃっと作って公開するというフットワークの軽さが特徴だった。
「安く効率よく儲ける」が信条だったので作品評はまったく振るわなかったのだが、そんなゴーランと組んでお手軽なアクション映画をドカドカと量産していたチャック・ノリスもまた、作品には恵まれなかったと言える。
しかし本作だけは違う。
なにせ製作がオライオン・ピクチャーズなのだ。
オライオンはキャノン・フィルムズと同じく1970年代に設立され、1980年代に全盛期を迎えた準メジャースタジオだが、ユナイテッド・アーティスツの元役員3人が共同経営にあたっていたという血筋の良さもあり、高品質な作品を多く生み出していた。
『ターミネーター』(1984年)、『バタリアン』(1985年)、『ロボコップ』(1987年)といったテレビ洋画劇場における神作品から、『アマデウス』(1984年)、『プラトーン』(1986年)、『ダンス・ウィズ・ウルブズ』(1990年)、『羊たちの沈黙』」(1991年)といったアカデミー賞受賞作品まで、抜群の審美眼を誇っていたのである。
もともと本作の脚本は『ダーティハリー4』として書かれたものだったが、クリント・イーストウッドに却下された後、独立した作品としてお色直しをされた。
オライオンは80万ドルもの大枚を払ってワーナーからこの脚本を買い取ったのだが、そんな期待とは裏腹にクリス・クリストファーソンからは出演を断られ、『テキサスSWAT』(1983年)をヒットさせたチャック・ノリスに回ってきたという経緯がある。
最初の主演候補ではなかったという点が泣かせる。
シカゴを舞台に暴れまわる2大麻薬組織をチャック・ノリスが壊滅させる話と言ってしまえば簡単なB級映画のようにも感じられるが、実のところ、なかなか創意に富んだサスペンスアクションの佳作として仕上がっている。
冒頭、チャック・ノリス扮するエディ・キューザック刑事のチームが南米系マフィアを張っているのだが、突如そこにイタリア系マフィアが乱入してきて金とブツを強奪していく。
これに怒り狂った南米系マフィアはイタリア系との全面戦争を開始するのだが、対応を迫られる警察もそれどころではなかった。
序盤の大捕り物の最中、ベテラン刑事が偶然現場に居合わせた青年を誤射で死なせてしまうのだが、現場を偽装して正当防衛だったと主張。
「とりあえず調べてみなきゃねぇ」という内部調査チームと、「詳細よく知らないが疑われてる仲間を助けなきゃ」と息巻く同僚刑事達との間に挟まれる格好となったキューザック刑事だが、己の信じる正義を貫徹し偽証を拒んだことから、密告屋のレッテルを貼られ孤立してしまう。
仲間の支援を受けられなくなった状態で2大マフィアと対峙することとなるキューザック刑事の勇姿は男の中の男であるし、チャック・ノリスにはシュワやスタのように軽々と敵を捻りつぶしてしまいそうな迫力もないので、物語には終始緊張感が漂っている。
本作を演出したのはアンドリュー・デイヴィス監督。
後の『沈黙の戦艦』(1992年)と『逃亡者』(1993年)でサスペンス・アクションの名手として躍り出るも、続く『チェーン・リアクション』(1996年)と『ダイヤルM』(1998年)の失敗によって信じられない勢いで失墜し、いまやどこで何をしているのかすら定かではない御仁であるが、本作では素晴らしい手際で複雑な構成要素をコンパクトにまとめていく。
デイヴィスのストーリーテリングの能力は本物で、うまく話をまとめていくなぁと感心しながら見入ってしまった。
孤立したチャック・ノリスは、キャタピラーがついて銃火器で武装したロボットを相棒に敵のアジトへと乗り込む。
映画をみていない人にとっては「どういうこと!?」というお話だが、本当にこういうクライマックスを迎えるのだ。
まぁ滅茶苦茶な話なのだが、見ている間はさほどの違和感を感じない。これがデイヴィス演出の凄いところだ。
そしてまた素晴らしいのが南米系マフィアのボスに扮するヘンリー・シルヴァである。
1950年代から活躍するベテランで、かつてはフランク・シナトラ一家の一員でもあったのだが、もともと特徴のあった顔立ちは加齢によって凄味を増した。
中肉中背で身体的には特徴がないのだが、その顔圧だけで強敵と認識されるという絶妙なバランス感覚が素晴らしい。
一見すると勝てなさそうなのだが、後に主人公がアッサリ勝利しても無理がないのだ。
まさにB級アクションにうってつけの逸材であり、実際、80年代には多くのアクション映画で悪役を演じた。
後にスティーヴン・セガールのデビュー作『刑事ニコ/法の死角』(1988年)でも悪役に扮し、顔圧だけを武器にセガールを追い込むことになるのだから、その迫力がいかに凄いものかがお分かりいただけるだろう。

