【良作】L.A.大捜査線/狼たちの街_狂った刑事ものの大怪作(ネタバレあり・感想・解説)

クライムアクション

(1985年 アメリカ)
狂った監督ウィリアム・フリードキンが描いた最強に狂った刑事もの。しかも80年代に人気だった音楽グループ ワン・チャンのポップな音楽でこの狂犬刑事ものを彩るというハチャメチャなセンス。この闇鍋加減にフリードキンの才気を感じました。

あらすじ

シークレット・サービスのチャンス(ウィリアム・ピーターセン)は、偽札事件を追っていた相棒のジミーを偽札職人マスターズ(ウィレム・デフォー)に殺される。怒りに燃えるチャンスは新たな相棒ヴコヴィッチ(ジョン・パンコウ)と共に捜査を開始するが、チャンスの捜査はなりふり構わぬ強引なものだった。

スタッフ・キャスト

監督はアカデミー賞受賞者ウィリアム・フリードキン

1935年シカゴ出身。父親の死で大学進学をあきらめてテレビ局で働くようになり、1960年代にはドキュメンタリー監督として注目されるようになりました。

『ソニーとシェールのグッド・タイムス』(1965年)で映画監督デビューし、『フレンチ・コネクション』(1971年)でアカデミー監督賞を受賞。また『エクソシスト』(1973年)は興行的にも批評的にも大成功を収めました。

その後『恐怖の報酬』(1977年)が大コケし、『クルージング』(1980年)でラジー賞ノミネートと低迷し、起死回生をかけて製作したのが本作でした。

主演は『ザ・ビースト/巨大イカの逆襲』のウィリアム・ピーターセン

1953年イリノイ州出身。大学を中退して演技を学び、劇団活動をした後にマイケル・マン監督の『ザ・クラッカー/真夜中のアウトロー』(1981年)で映画デビュー。本作に続いて同じくマイケル・マン監督の『刑事グラハム/凍りついた欲望』(1986年)にも主演しましたが、以降はテレビ界での活動が中心となりました。

1990年代には、日曜洋画劇場での放送で日本でも話題となったテレビ映画『ザ・ビースト/巨大イカの逆襲』(1996年)に主演。

またジェリー・ブラッカイマー製作のドラマシリーズ『CSI:科学捜査班』では主任のギル・グリッソム役を9シーズンに渡って務めました。

共演はウィレム・デフォー

1955年ウィスコンシン州出身。8人兄弟の7番目。

大学を中退して劇団に加入し、マイケル・チミノ監督の『天国の門』(1981年)で映画デビューしましたが、出演シーンは最終的にカットされました。

ウォルター・ヒル監督の『ストリート・オブ・ファイヤー』(1984年)で注目され、オリバー・ストーン監督の『プラトーン』(1986年)で人気爆発。マーティン・スコセッシ監督の『最後の誘惑』(1988年)ではイエス・キリストを演じました。

作品解説

興行的には低調だった

1985年4月27日に全米公開されて初登場2位。その週の1位はチャールズ・ブロンソン主演の『スーパーマグナム』(1985年)でした。ウィリアム・フリードキンの映画がデスウィッシュ3に敗北するという時代があったのです。

その後もランクを上げることはなく公開6週目にしてトップ10圏外へと弾き出され、全米トータルグロスは1730万ドルにとどまりました。

製作費600万ドルの中規模作品だったので赤字にこそならなかったものの、かつて『エクソシスト』(1973年)を歴史的な大ヒットに導いたウィリアム・フリードキンとしては物足りない結果でした。

感想

最強に狂った刑事チャンス

本作の主人公はチャンス捜査官(ウィリアム・ピーターセン)。シークレット・サービス所属なのですが、さほどシークレット・サービスという設定も生きていないので、当レビューでは刑事扱いとしておきます。

チャンスはバンジージャンプが趣味という分かりやすい危険愛好者であり、先輩であり相棒であり友人でもあるジミー・ハート捜査官(マイケル・グリーン)が偽札捜査中に偽札職人マスターズ(ウィレム・デフォー)に殺されたことから、その捜査を引き継ぎます。

このチャンス、一見すると長身イケメンでヒーロー然としているのですが、情報屋として使っている軽犯罪者の女(ダーラン・フリューゲル)を抱き、その女が甘えてくると「知るかバカ。また刑務所に戻すぞ」みたいなことを言う、なかなかの外道ぶりを披露します。

一応偽札捜査をやっているものの、どうも社会正義のために動いている様子もなく、友達を殺されたことに怒っての復讐と、より根本的な部分では捜査官という立場なら合法的に暴力を振るえるし、場合によっては人を殺したってお咎めなしという点にメリットを感じているように見えます。

まさに狂犬刑事そのもの。

しかもこのチャンス、これだけオラってる割には敵からの反撃に遭うと異常に弱いという点も見逃せません。

逮捕した偽札の運び屋コーディ(ジョン・タトゥーロ)に犯罪現場の案内をさせるのですが、コーディはチャンスに偽の場所を教えており、一瞬の隙を突いて反撃します。その結果、簡単に倒されて逃げられるチャンス。

いくら不意を突かれたとは言え、丸腰のコーディにいとも簡単に反撃されるチャンスは弱過ぎでしょ。

70年代の刑事ものを80年代風に見せた異常な演出

こうしてチャンス捜査官の個性を振り返ってみると、彼は『フレンチ・コネクション』(1971年)や『ダーティー・ハリー』(1971年)といった70年代の刑事のDNAを継いでいると言えます。

主人公は正義のヒーローではなく、個人的に異常な点があって、その異常さがたまたま刑事という職業とマッチしていたみたいな。毒を以て毒を制すというコンセプトですね。

そんな吹き荒ぶ風がよく似合う物語でありながら、作品の音楽を担当したのは80年代に一世を風靡したシンセポップグループのワン・チャン。ド頭からドン・シンプソンの映画みたいないかにも80年代っぽい音楽が流れます。

この組み合わせ方は凄かったですね。自分は何の映画を見ているのか、一瞬見失いそうになるような破壊力があり、ウィリアム・フリードキンの底力を見せられた気分になりました。

なお、このテイストは『特捜刑事マイアミ・バイス』(1984-1985年)を彷彿とさせ、Wikipediaの本作のページにはウィリアム・フリードキンが『マイアミ・バイス』のクリエイターであるマイケル・マンに訴えられたという話が載っているのですが、どうやらこれはガセネタのようです。

フリードキンとマンは長年友人関係にあるし、チャンス捜査官を演じたウィリアム・ペーターセンは、翌年にマイケル・マン監督の『刑事グラハム/凍りついた陰謀』(ビデオのタイトルは『レッド・ドラゴン/レクター博士の沈黙』)に主演しています。

本当にマイケル・マンが本作を訴えていたとすれば、その主演俳優を自身の監督作に起用することなどないでしょう。

予想を遥かに上回る後半の暴走 ※ネタバレあり

こうして狂犬刑事の活躍が描かれていくのですが、後半では刑事ものとは思えない異常な逸脱を開始します。

偽札を追うためにはその取引に潜入する必要があるということで、チャンスは偽札の買い取り資金を組織に対して要求するのですが、上司からは却下されます。するとチャンスは別件で耳に入れていた犯罪組織同士のダイヤの取引を思い出し、このダイヤを強奪して偽札の買い取り原資を作ることを思い付きます。

犯罪組織のダイヤなのだから奪ったって通報もされないという理屈なのですが、それにしても刑事が強盗をやるという滅茶苦茶なシナリオにはびっくり仰天しました。

いざ強盗計画を開始すると、どうにも追っ手がしつこい。しかも大勢現れる。チャンスが追っ手を振り切る際の15分に渡るカーチェイスは『フレンチ・コネクション』(1971年)をも凌ぐ迫力と疾走感であり、存分に目を楽しませてくれました。

そしてその後に判明するのが、チャンスが襲ったのはFBIの潜入捜査官であり、FBIは血眼になってダイヤ強奪犯を探しているという続報でした。万事休するチャンス。

この畳みかけるような意外性の連続と、普通にやればトンデモ映画になりかねないところを、何とか破綻することなく成立させたフリードキンの手腕には恐れ入りました。

刑事ものの大怪作として、本作は唯一無二の魅力を放ち続けています。