「ハリウッドは企画が枯渇している」「アメコミの実写化かヒット作の続編ばかり」との批判が多く囁かれており、確かにそういう企画って目に付きます。最近のトレンドは、前作からかなり時間の経過したお久しぶりの続編が多いってことでしょうか。こうして昔の企画までを引っ張り出してくるようになると、いよいよ企画の枯渇に困ってるのかなという印象を受けます。これらお久しぶりの続編映画の出来って実際のところどうなのかについて検証してみたいと思います。
ターミネーター:ニュー・フェイト(2019年 アメリカ)
前作:ターミネーター2(1991年 アメリカ)
ターミネーター2【良作】興奮と感動の嵐!ただしSF映画としては超テキトー(ネタバレあり、感想、解説)
あらすじ
2020年のメキシコにターミネーターRev-9と強化人間グレースが現れ、ダニー・ラモスという少女を巡って死闘を開始する。そこに現れたのがサラ・コナーであり、グレースとダニーの窮地を救う。グレースではネットワーク接続機能を持ったRev-9から逃げ切ることはできないとして、サラも逃避行に加わることにする。
前作との比較
前作 | 続編 | |
製作年 | 1991年 | 2019年 |
上映時間 | 137分 | 128分 |
製作費 | 1億200万ドル | 1億8500万ドル |
全米興行収入 | 2億484万ドル | 6225万ドル |
受賞歴 | 【アカデミー賞】 撮影賞(ノミネート) メイクアップ賞(受賞) 視覚効果賞(受賞) 音響賞(受賞) 音響効果編集賞(受賞) 編集賞(ノミネート) | – |
IMDBレート (2020年1月7日閲覧) | 8.5 | 6.5 |
製作の背景
本作の事情はちょっと特殊です。『ターミネーター2』(1991年)の後にも2003年、2009年、2015年の3度に渡って続編が作られていました。
ただしそれらの続編はシリーズ生みの親であるジェームズ・キャメロンもゲイル・アン・ハードも権利を手放した後に、これを購入したプロデューサー達と代表作『ターミネーター』から離れられなかったアーノルド・シュワルツェネッガーにより生み出されたものでした。
かつどの作品もファンから認められる出来ではなく、新作ができる度に仕切り直しを繰り返すという不安定な状態にあり、とてもシリーズものとしての体をなしていませんでした。
そんな中で、2019年に権利の一部が手元に戻ったキャメロンが28年ぶりに製作に乗り出したのが本作でした。生みの親キャメロンは本作を「『ターミネーター2』の正式な続編」と言い、『3』や『ジェニシス』にノリノリで出演してきたはずのシュワルツェネッガーも「直近3作品のことは忘れてくれてもいい」と言うほどで、ようやく真の『ターミネーター3』を見られると全世界のファンが期待しました。
前作よりも相当落ちる出来
製作費として1億8500万ドルもの巨費を投じながらも興行成績は6千万ドル程度に留まり、キャメロンやシュワが否定した直近3作品を大きく下回りました。ビジネス的には大惨敗です。
この興行成績の低さが物語っている通り、作品としてはダメな部類に入ります。ジョン・コナーがアッサリ殺されていたという冒頭のサプライズや、おじいさんになったシュワの哀愁など見るべきものもあるにはあったのですが、T-1000に該当するような強力な敵を生み出せていないし、アクションにも熱が感じられず、歴史的な傑作『ターミネーター2』(1991年)との比較にもならないレベルでした。
『ターミネーター2』のラストで核戦争は回避されたが、別の形で機械との戦争が始まるという設定がご都合主義的すぎて冷めましたね。また、キャメロンが「スープに小便をされたような気分だ」とまで言って貶していた『ターミネーター3』(2003年)との類似点が多いという点もいただけませんでした。
キャメロンが作ってもダメだったということは、『ターミネーター』というコンテンツの寿命は遠の昔に終わっているんでしょう。
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ドクター・スリープ(2019年 アメリカ)

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前作:シャイニング(1980年 アメリカ)
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あらすじ
『シャイニング』(1980年)から40年後。父ジャック同様にアルコール中毒に苦しむダニーが、同じ能力を持つ少女とともに新たな戦いに身を投じていく。
前作との比較
前作 | 続編 | |
製作年 | 1980年 | 2019年 |
上映時間 | 143分 | 152分 |
製作費 | 1200万ドル | 4500万ドル |
全米興行収入 | 9498万ドル | 3157万ドル |
受賞歴 | 【ラジー賞】 ワースト主演女優賞(ノミネート) ワースト監督賞(ノミネート) | – |
IMDBレート (2020年1月7日閲覧) | 8.4 | 7.5 |
製作の背景
本作はなかなか難しい企画でした。キューブリックが原作を歪めまくった前作『シャイニング』(1980年)に対して原作者のスティーヴン・キングは激怒しており、後に自ら脚本を書いてTVM版『シャイニング』(1997年)を製作したほどでした。そして、キング版『シャイニング』の続編として執筆されたのが原作小説『ドクター・スリープ』(2013年)なのでした。
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つまり、小説版『ドクター・スリープ』を忠実に映画化すれば映画版『シャイニング』(1980年)とは繋がらなくなり、映画版『シャイニング』の続編として製作すれば小説版『ドクター・スリープ』(2013年)から離れざるをえなくなるという、困難な状況があったのです。
この難題に対し、脚本も書いたマイク・フラナガン監督は小説版『ドクター・スリープ』の映画化企画であると同時に、映画版『シャイニング』の続編企画でもあるという、奇跡的な配合を『ドクター・スリープ』(2019年)で実現しました。水と油だった両シャイニングを緩やかに統合したという点に、本作の功績はあるのです。
ファンの二次創作物レベル
ただし映画として面白かったかどうかは別です。
確かに小技の利いた映画だし、キューブリックの名場面の再現にも努めています。しかし、偏執的なこだわりの中で作られた『シャイニング』(1980年)と比較すると画面の密度が大きく異なり、上手な模倣に終わっています。
加えて、全然怖くないというホラー映画として致命的な欠点も抱えており、『シャイニング』ファンのおかわりとしては有効かもしれないが、一本の映画として見ると非常に厳しい出来と言わざるをえません。
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ブレードランナー2049(2017年 アメリカ)

ブレードランナー2049_前作のドラマを否定した続編【5点/10点満点中】
前作:ブレードランナー(1982年 アメリカ)
ブレードランナー【凡作】映像美というワンポイントのみで突き抜けた映画
あらすじ
2049年、ネクサス9型レプリカントのKは、逃亡した旧型アンドロイドを追うブレードランナーとして働いていた。ある日の任務中、地面に埋められていたトランクを発見する。トランクの中身は女性の遺骨であり、出産時の合併症で死亡したものと推測されたが、その遺骨には製造ナンバーが刻まれていた。
前作との比較
前作 | 続編 | |
製作年 | 1982年 | 2017年 |
上映時間 | 116分 | 163分 |
製作費 | 2800万ドル | 1億5000万ドル |
全米興行収入 | 3286万ドル | 9205万ドル |
受賞歴 | 【アカデミー賞】 美術賞(ノミネート) 視覚効果賞(ノミネート) | 【アカデミー賞】 撮影賞(受賞) 美術賞(ノミネート) 音響編集賞(ノミネート) 録音賞(ノミネート) 視覚効果賞(受賞) |
IMDBレート (2020年1月7日閲覧) | 8.1 | 8.0 |
製作の背景
本作は上記『ドクター・スリープ』と同じく、複雑な事情を抱えた続編でした。デッカードの正体につき、前作劇場版(1982年)では人間、前作ディレクターズ・カット版(1992年)ではレプリカントと異なる設定となっており、続編を作るとした場合にどちらの説を取るのかという問題を抱えていたのです。加えて、前作に主演したハリソン・フォードが作品を大変嫌っており、続編への出演を期待できない状況もありました。
1990年代から続編の企画はあったものの成果はなく、2007年には前作の監督リドリー・スコットが企画実現に向けて動き出したが進捗は思わしくありませんでした。2014年にリドリー・スコットは監督を降りて製作総指揮に回ることにし、2015年にドゥニ・ヴィルヌーヴが雇われました。ヴィルヌーヴは前作の脚本家ハンプトン・ファンチャーを召喚し、数十年間膠着状態だった企画をまとめたのでした。
前作と同水準の続編
本作には、あらゆる映像メディアに影響を与えた偉大なる前作を親に持つ続編ゆえの苦悩がありました。その影響力ゆえに前作のイメージは陳腐化しており、同じものを出せばファンは納得しない。しかしまったく違うものを出してもファンは納得しないという困難な背景があって、ヴィルヌーヴと撮影監督のロジャー・ディーキンスは圧巻の映像美でこの難題に答えてみせました。本作の映像美には一見の価値ありです。
加えて全編を貫くハードボイルドな雰囲気や哲学的なメッセージなど何やら物凄いことを言っているような重みのある作品であり、見応えは十分でした。映画史上の傑作である前作と同水準の作品を出してきており、十分に及第点を与えられる出来だったと言えます。
ただし、雰囲気ものの域は出ていませんでした。全世界のファンは35年間に渡って前作を味わい尽くしており、『ブレードランナー』という作品にはすでに語るべき物語が残っていませんでした。本編に散りばめられた謎解きやラストのどんでん返しにも深みがなく、どこか空虚な印象を受けました。
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遊星からの物体X ファーストコンタクト(2011年 アメリカ)
前作:遊星からの物体X(1982年 アメリカ)
遊星からの物体X【良作】素晴らしい設定・特殊効果・演出(ネタバレあり・感想・解説)
あらすじ
1982年、南極大陸のノルウェー観測隊が氷の下にある巨大な人工物を発見し、これに対してノルウェー人とアメリカ人から成る観測チームが編成された。チームは氷漬けの生物を基地に持ち帰るが、蘇った生物は氷を粉砕して基地の外へと逃げ出した。
前作との比較
前作 | 続編 | |
製作年 | 1982年 | 2011年 |
上映時間 | 109分 | 104分 |
製作費 | 1500万ドル | 3800万ドル |
全米興行収入 | 1960万ドル | 2742万ドル |
受賞歴 | 【ラジー賞】 ワースト音楽賞(ノミネート) | – |
IMDBレート (2020年1月7日閲覧) | 8.1 | 6.2 |
製作の背景
ジョン・W・キャンベル Jr.著のSF短編小説『影が行く』(1938年)の3度目の映画化企画なのですが、『遊星からの物体X』(1982年)がSF映画史上の傑作の地位を確立したためこの存在を無視して通ることもできず、1982年版と世界観が連続した前日譚という形で製作されました。再映画化であり続編でもあるという複雑な構造が、観客からの理解を難しくしたように感じます。
前作より相当落ちる出来
前作『遊星からの物体X』(1982年)はロブ・ボッティンによる天才的なクリーチャーデザインに支えられていました。擬態能力を持ち、体のすべての部位が独立した生物であるという訳の分からん設定をボッティンは見事に具体化できており、その独創性や意表を突いた登場の仕方には度肝を抜かれました。
その29年後に製作され、VFX技術の発展により映像表現の幅が拡大したはずの本作では、むしろクリーチャーの衝撃度は後退していました。何となく基本フォルムっぽいものがあり、完全な不定形だったボッティンのデザインよりも大人しくなっているのです。これは大失態でした。
また、仲間が物体に擬態されているかどうかを調べる血液検査の再演もあるのですが、これが拍子抜けするほど説得力がなく、当然緊張感もありませんでした。
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ユニバーサル・ソルジャー:リジェネレーション(2009年 アメリカ)
前作:ユニバーサル・ソルジャー(1992年 アメリカ)
ユニバーサル・ソルジャー【良作】デラックスなB級アクション(ネタバレあり・感想)
あらすじ
チェチェン過激派がロシア首相の子息を誘拐し、チェルノブイリを占拠。過激派は開発計画が放棄されたはずのユニバーサル・ソルジャーを従えていたことから、鎮圧者側もユニバーサル・ソルジャーを動員して対抗する。
前作との比較
前作 | 続編 | |
製作年 | 1992年 | 2009年 |
上映時間 | 102分 | 97分 |
製作費 | 2300万ドル | 1000万ドル |
全米興行収入 | 3629万ドル | 84万ドル |
受賞歴 | – | – |
IMDBレート (2020年1月7日閲覧) | 6.0 | 5.2 |
製作の背景
前作『ユニバーサル・ソルジャー』(1992年)は大ヒットにこそならなかったもののソフトやテレビ放映では人気を博し、1998年にはテレビシリーズ化を視野に入れたTVMとして『Ⅱ』『Ⅲ』が作られました。ただしオリジナルのキャストもスタッフも関与していない別物である上に、出来も悪かったことからシリーズ化には至りませんでしたが。
1999年にはついにヴァンダムが動き出して『ユニバーサル・ソルジャー/ザ・リターン』が製作されましたが、前作とは打って変わってリュックがよく喋る愉快な奴になっていて雰囲気ぶち壊し。アクション映画としても面白くなかったし、同年に『マトリックス』を担当したドン・デイヴィスによる作品とは思えないほど音楽も安っぽくて、すべてにおいて失敗していました。
本作はこうした作品群をすべてなかったことにし、1992年版の直接の続編として製作されています。
B級素材の再利用例として理想的な続編
前作は決して傑作の類ではありませんでしたが、常人よりもちょっと強い程度という良い塩梅のユニバーサル・ソルジャーの戦力設定や、『ロボコップ』(1987年)を5倍希釈にしたような哲学的問いかけがとても見やすい、B級アクションの鑑のような作品でした。
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そして、続編の本作は「どうせB級アクションでしょ」という観客側の油断を突いた猛烈な仕上がりとなっています。序盤で繰り広げられるカーチェイスの壮絶さや、文字通り殺人兵器と化したユニソル達による殺戮の容赦のなさ。また人外の孤独などのドラマ要素も盛り込まれており、堂々たる大人の映画として作られているのです。
出来の良い前作の縮小再生産だけが続編ではない、そこそこに面白い前作の良かった部分だけを利用して、驚くべき続編を作り上げるということも続編の方向性としてはありではないか。そんなことを提示できた作品でした。
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まとめ
やはり偉大な親を持つ子は苦労するようで、数十年後に続編が企画されるほどの人気作の続編は概ね苦戦しています。
素晴らしいと言えたのは『ユニバーサル・ソルジャー:リジェネレーション』だけでしたが、これは前作が一般から高い評価を受けておらずハードルを越えることが比較的容易だったこと、続編の製作規模を絞ってファンのみにアピールする作品にしたことが勝因だったと思われます。大きな期待を背負った名作・傑作の続編では、なかなかこうもいかないのです。
お久しぶりの続編は今後もリリースされますよ
検証の通りお久しぶりの続編が観客の期待値に応えることはなかなか難しいのですが、それでも2020年以降もこの類の映画はどんどん出てきますよ。
まず『バッド・ボーイズ フォー・ライフ』(2020年1月公開予定)。次に『トップガン マーヴェリック』(2020年7月公開予定)。加えてNetflixが『ビバリーヒルズ・コップ4』の製作に入るとの報道もありました。テレビドラマでは『ネメシス/S.T.X』(2002年)の20年後が描かれる『スタートレック:ピカード』が始まります。
よくよくラインナップを眺めてみるとジェリー・ブラッカイマーの映画が多いのですが、それほど彼の映画にはファンが多いということなんでしょう。