世界初の「照明一体型・3in1プロジェクター」として2018年に発売され、そのユニークな製品コンセプトでホームシアターの新たな選択肢となりつつあるのがポップインアラジン(popIn Aladdin)ですが、その一般的な知名度とは裏腹に、従来のオーディオビジュアルにこだわる層からはほとんど相手にされていないという状況があります。
そんな中、友人宅にポップインアラジンがあるというので、通常のプロジェクターとどう違うのかを確認してまいりました。
なお、ホームシアター関連の記事ではなるべく写真を載せているのですが、友人がどうしても写真を撮ってくれるなというので、今回は写真なしでお送りします。
ポップインアラジンとは
日本企業popIn株式会社によって開発された世界初の「照明一体型・3in1プロジェクター」で、シーリングライトにプロジェクターとスピーカーが搭載されています。
設置・給電は一般家庭の天井にある丸形引っ掛けシーリングでなされることから配線をする必要がなく、設置が非常に容易。
そして本体にはNetflixやYoutubeなどの動画アプリが入っているため、設置してWi-Fi接続するだけで動画コンテンツを楽しむことができます。
現在までに発売されているのは以下の3種類です。
popIn Aladdin | popIn Aladdin 2 | popIn Aladdin SE | |
リリース | 2018年11月 | 2020年4月 | 2020年11月 |
販売価格 | 79,800円 | 99,800円 | 74,800円 |
解像度 | HD(1280×800) | フルHD(1920×1080) | フルHD(1920×1080) |
最大照度 | 700ルーメン | 700ルーメン | 500ルーメン |
スピーカー | 5W+5W | 8W+8W | 3W+3W |
ポップインアラジン≒コンパクトカー
結論から申し上げると、ポップインアラジンと通常のプロジェクターは製品コンセプトがまったく正反対なので、ユーザーサイドが何を求めているか次第で、どちらを選ぶべきかは変わります。
例えるなら、ポップインアラジンはコンパクトカー、設置型プロジェクターはスポーツカーです。
コンパクトカーは居住性と燃費が良く、価格も抑えめで、運転技量が低いドライバーにも扱いやすいということで手が出しやすい車種である反面、根本的な車の動力性能では劣ります。そしてスポーツカーはそれとは正反対。
コンパクトカーを求めるドライバーがスポーツカーを手にすれば持て余すだろうし、スポーツカーを求めるドライバーがコンパクトカーに乗れば物足りなさを覚えるでしょう。
例えばポップインアラジンの売りの一つとして、米オーディオメーカー ハーマンカードン社製スピーカーを搭載していることがありますが、一方で50万円超の高価格帯プロジェクターを得意とするJVCケンウッドは、プロジェクターにスピーカーを搭載させないという方針を取っています。
うちの製品を買うレベルのユーザーは別途でホームシアターシステムを構築しているはずであり、プロジェクター内蔵のスピーカーなんてそもそも使わないでしょという、走行性能のみに特化して荷物すら満足に積めないスポーツカーのような開発思想がそこにはあるのです。
ポップインアラジンと設置型プロジェクターにはそれほどの違いがあると思って、以下の比較を読み進めていってください。
設置型プロジェクターとの比較
設置の容易さは革命的
ポップインアラジンの製品コンセプトは設置の容易さ。
これは、従来型のプロジェクターが設置の困難性から敬遠されてきたことの裏返しとなっています。従来型のプロジェクターの何が大変って、
- プロジェクターの天吊り工事をしなければならない
- 焦点距離を稼げる場所にプロジェクターを設置しなければならない
- 部屋中にコードが這いまわる
の3点で、そこまでして大画面で映像を見たいという人は相当限られてくることから、プロジェクター市場は伸びてきませんでした。これに対してポップインアラジンは、
- 多くの家庭にある丸形引っ掛けシーリングに取り付けるだけで設置完了
- 超短焦点レンズを使うことで設置場所の制約条件を大幅緩和
- ワイヤレス化で配線の手間を省く
との模範回答を出しています。これは純粋にすごいと思いました。
面倒な設置作業をするほどの余裕や情熱はないけど、簡単にできるのなら大画面を楽しみたいという層には、ポップインアラジンは完璧な製品です。
また賃貸なのでプロジェクターの設置工事なんてできないという人にとっての有力な選択肢にもなっています。
プロジェクターとしての性能は低い
ただしプロジェクターとしての性能は落ちます。これは汎用機の宿命だと思ってください。
プロジェクターの性能で重要な指標は最大照度とコントラストで、これらはフルHDや4Kといった画素数よりも重要だと言う人もいます。
最大照度とは文字通り光源の出力で、これが高ければ高いほど映像をパワフルに映し出せるのですが、ポップインアラジンの値は700ルーメン(SEは500ルーメン)。設置型のプロジェクターと比較すると、これはあまり高くない数値です。
先日、私が購入した旧式の4Kプロジェクター「JVC DLA-X75R」の最大照度が1200ルーメン、現在人気の4Kプロジェクター「EPSON ドリーミオ EH-TW7100」が3000ルーメンですから、根本的な性能では従来型のプロジェクターに大きく水をあけられています。
次にコントラストで、これは画面の一番明るい部分と一番暗い部分の差を示しており、これが高ければ高いほど、画面はくっきりはっきりと鮮明になります。
で、公式のQ&Aによるとポップインアラジンが400:1。これに対して「JVC DLA-X75R」が90,000:1、「EPSON ドリーミオ EH-TW7100」が100,000:1で、桁がまったく違います。
また、設置面での強みとして挙げた超短焦点レンズも、画質面ではマイナス影響を及ぼしています。
超短焦点の宿命として画面の隅から隅までピントが合うということはなく、中心にピントを合わせると隅がややぼやける状態となります。プロジェクターという製品カテゴリーに接した経験のある人が見れば気になる程度の些細なレベルではありますが。
これらのことから、ポップインアラジンは高画質を求める層には適していないと言えます。
スペックのみに注目すると割高
では価格はというと、単純にプロジェクターとしてのスペックを考えると割高です。
10万円弱という同一価格帯の設置型プロジェクターを探すと、台湾メーカーBenQのEH600や米メーカーViewSonicのPX747-4Kなどがあり、それぞれスペックはポップインアラジンを凌駕しています。
popIn Aladdin 2 | EH600 | PX747-4K | |
メーカー | popIn | BenQ | ViewSonic |
最大照度 | 700ルーメン | 3500ルーメン | 3500ルーメン |
コントラスト比 | 400:1 | 10,000:1 | 12,000:1 |
解像度 | 1920×1080 | 1920×1080 | 3840×2160 |
実売価格※ | 99,800円 | 98,990円 | 91,800円 |
また、あくまで安く仕上げたいのならば、中華製プロジェクターという道もあります。
↓以前に中華製プロジェクターを自室に設置してみた際の記事ですが、サウンドバーやスクリーンを購入しても7万円未満で仕上がったので、ポップインアラジンと同じくスクリーンは使わず壁に映写、サウンドバーではなく内蔵スピーカーを使うならば、数万円でも実現可能です。
もちろんこれらの設置型プロジェクターの導入には、
- プロジェクターの天吊り工事をしなければならない
- 焦点距離を稼げる場所にプロジェクターを設置しなければならない
- 部屋中にコードが這いまわる
の3大困難を乗り越える必要があり、そんな苦労はしたくない、もしくは賃貸なのでそこまで出来ないということであれば、ポップインアラジンは依然として有力な選択肢となります。
なお、賃貸でもゴリゴリのホームシアター(プロジェクター+スクリーン+リアル5.1ch)を導入する方法はこちらの記事で紹介しています。
完全ワイヤレスゆえの不自由さ
製品コンセプトの一つである完全ワイヤレス化がデメリットとなる場面があることにも留意が必要です。
有線接続がデフォルトのソース(地上波放送、Blu-ray、ゲーム機)を見たい場合には、随分と回りくどいことをさせらます。
まず地上波放送を見たい場合には、ポップインアラジンとWi-Fi接続可能な地上波チューナーを別途購入し、これをお部屋のアンテナプラグと接続。そしてポップインアラジンに内蔵されているテレビ視聴アプリと繋げるという方法を取ります。
公式がお勧めしているのはピクセラ社のXit AirBoxという製品で、市価は最安値でも2万円強とまぁまぁします。
次にゲーム機やBlu-rayソフトを楽しむ場合には、公式が開発したAladdin Connectorなるものを使用します。これはHDMI対応機器からのデータを無線で飛ばすデバイスで、2021年4月に限定3000台で予約販売され、現在は2021年11月の一般販売に向けた予約を受け付けている段階です。
お値段15,800円と、こちらも安いBlu-ray再生機くらいします。
このAladdin Connector、フレームレートが35fps(frames per second)であるという点には留意が必要です。フレームレートとは1秒間に何枚の画像を流すのかという数値であり、これが高いほど滑らかな動画になります。
で、映画は24fps、テレビは30fpsなのでデバイス性能でも十分にカバーできるのですが、問題はゲーム機で、こちらは60fpsなのでAladdin Connectorを通すと滑らかな動画にはなりません。
また0.1秒程度の遅延も発生するようなので、ポップインアラジンで動きの速いゲームをプレイするのは、現時点では厳しいと言えます。
これだけ厄介だと、ポップインアラジン本体にHDMI端子を一つくらい付ければいいのにと思うのですが、それこそが俗物の発想というやつなんでしょうね。ワイヤレスこそが製品コンセプトであり、どれだけニードがあっても有線は採用しない方針なのでしょう。
その他使用感
明るい部屋ではほぼ見えない
プロジェクター未経験の方は、明るい部屋でも使えるのかどうかという疑問をお持ちだと思いますが、映画などはかなり画面が暗いので、3000ルーメンの設置型プロジェクターですら日中ではよく見えません。よって700ルーメンのポップインアラジンでは絶望的だとお考え下さい。
人によっては利用目的に性能が追い付かないかもしれないので、どんな使い方をしたいのかはよく考えておく必要があります。
例えば、日曜の昼間に家族みんなで映画を楽しみたいという要望には応えられない可能性が高いと言えます。
一方で、動画を見るのは主に夜という方には、この製品はピタリとはまります。
内蔵スピーカーは映画館の代わりにならない
プロジェクターの導入理由で多いのは「自宅で映画館」であり、映画館らしさとは、とどのつまり、映像と音の2つの構成要素を、非日常を感じるレベルにまで高めることで実現されます。
映像面の評価は今まで書いてきた通りなのですが、では音はというと、内蔵スピーカーではちょっと厳しいものがあります。
ポップインアラジンに内蔵されているのはハーマンカードン社製スピーカー。ハーマンカードンとはBMWやベンツなどの高級車の車載スピーカーとしても採用されている老舗オーディオメーカーです。
よってポップインアラジンも音には一定のこだわりを持っていることは伝わるのですが、ではこれが映像体験の質を高めるほどのものかと言われると、その方向性はそもそも追及していないように感じました。
はっきりよく聞こえることを重視したスピーカーという印象で、迫力や臨場感は求めていません。テレビを見たり音楽を聴いたりと言った汎用デバイスなので、それが最適解と判断されたのでしょう。
サウンドバーやリアル5.1chなど、映画館の音を家で再現する場合に用いる設備とはそもそものベクトルが違うので、その方向性を求める方々は内蔵スピーカーでは満足されないはずです。
ちなみにポップインアラジン内蔵スピーカーの出力が8Wに対して、私がフロントスピーカーとして使っているBOSE 161の出力は100Wなので、本格的なスピーカーとはかなり物が違うということは留意すべきです。
こちらもまた「製品に何を求めるのか」というユーザーサイドの問題となりますね。
まとめ
ポップインアラジンを選ぶべき人
- 大画面に興味はあるが、面倒な設置作業をしたくない人
- ごちゃごちゃとモノを置かず、部屋をスッキリさせたい人
- 利用場面が主に夜の人
設置型プロジェクターを選ぶべき人
- 通常のプロジェクター設置ができる環境にある人
- 本格的なホームシアターを求めている人
- 大画面でゲームをしたい人
どちらもやめとくべき人
- 明るい部屋で大画面を楽しみたい人
プロジェクターでは無理なので、なるべく大きなテレビを買いましょう。
≪ホームシアター≫
【総額7万円以下】100インチホームシアターを6畳間に作ってみた
【総額5万円以下】窮屈な6畳間に5.1chサラウンドを設置してみた
【ホームシアター】BOSEスピーカーは古い音源を生まれ変わらせる
【落札額1万5千円】レーザーディスクプレーヤーを買ってみた
【穴あけ不要】賃貸に100インチホームシアターを設置した件
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