(1991年 アメリカ)
かなり雑な話でリアリティどころではなく、サスペンスアクションに必要な張り詰めた空気など微塵もありませんでした。目立ったアクションもなくいろいろしんどかったのですが、若い頃のデンゼルがとにかくかっこいいので、主演俳優の魅力で何とか持ちこたえています。

作品解説
シルバー製作×マルケイ監督×デンゼル主演
本作の製作は『リーサル・ウェポン』(1987年)、『ダイ・ハード』(1988年)でお馴染みのジョエル・シルバーで、監督は『ハイランダー 悪魔の戦士』(1985年)のラッセル・マルケイ。
元は『ロボコップ3』(1993年)のフレッド・デッカーが『ダーティハリー』(1971年)の新作として執筆した脚本でしたが、これが却下された後に引き取ったシルバーが、子飼いの脚本家スティーヴン・E・デ・スーザを使ってスタンドアローンの作品として再編したものでした。
主演はデンゼル・ワシントンで、『グローリー』(1989年)でアカデミー助演男優賞を受賞して大注目をされているところでした。
ダイ・ハードユニバースに含まれるらしいです
シルバーによると、本作は『ダイ・ハード』(1988年)と世界観を共有している作品だということです。なぜなら、『ダイ・ハード』(1988年)でテレビリポーターを演じたメアリー・エレン・トレイナーが、本作でもまったく同じ役名ゲイル・ウォーレンズとして出演しているからです。
ナカトミビルが襲われたのと同じ世界線で起こった事件だと考えるとなかなか燃えるのですが、本作でデンゼルの父親に扮したジョン・エイモスは『ダイ・ハード2』(1990年)で特殊部隊の隊長を演じており、さっそく辻褄が合っていないような気がします。
興行的には失敗した
本作は1991年10月4日に全米公開され、テリー・ギリアムの『フィッシャー・キング』(1991年)に敗れて初登場2位。その後4位、10位と順位を落としていき、全米トータルグロスは2175万ドルに留まりました。
感想
若い頃のデンゼルが凛々しい
主人公はデンゼル・ワシントン扮するニック・スタイルズ。ニックはLAの下町出身で、悪そうな奴は大体友達(©ZEEBRA)という悪環境をはねのけて警察官になったばかりか、UCLAの夜学に通って法律の学位も取ろうと頑張っています。
そんな理想的な人格を持つニック役にデンゼルのさわやかさが実によくハマっています。撮影当時のデンゼルは実は36歳でそこそこの年齢だったものの、理想の実現に向けて頑張る20代の新米警察官にちゃんと見えるのだから大したものです。
ある日、ニックはジョン・リスゴー扮する殺し屋を抜群の機転で逮捕し、その一部始終を記録した映像がメディアで大々的に取り上げられたことで検事局からの引き抜きに遭い、そこから検事補としてのキャリアを歩み始めます。
警察官から検事への転身。これもまたデンゼルの個性によって違和感なく表現できており、期待の若手検事補として肩で風切って歩く様にも嫌味がありません。
本作は半ばデンゼルのアイドル映画と化しているのですが、男の私でも飽きずに見ていられるほどデンゼルは魅力的でした。
ジョン・リスゴーが殺し屋に見えない
そんなニックの華麗なるキャリアを苦虫を噛み潰したような顔で眺めているのが、その昇進のきっかけを作った殺し屋ブレイク(ジョン・リスゴー)。
ニックを逆恨みしたブレイクの復讐劇が本編となるのですが、はまり役だったデンゼルに対して、リスゴーがまったく殺し屋に見えなかったことがしんどかったです。
肉体的に逞しいわけではないリスゴーは『クリフハンガー』(1993年)で演じたような犯罪組織のボス役の方が向いています。
ブライアン・デ・パルマ監督の『ミッドナイト・クロス』(1981年)で殺し屋を演じた経験はあるものの、同作の殺し屋は闇に紛れて活動する狡猾な知能犯という風情だったので、肉体的な逞しさは求められていませんでした。
その点、本作のブレイクは銃を振り回して麻薬取引現場を襲うようなゴリゴリの武闘派なので、リスゴーの持ち味とは違うんですよね。
サシで勝負したら絶対にデンゼルに勝てそうにないし。
刑務所の野放図ぶりが凄い
そんなブレイクが収監されている刑務所が、現実的にありえないことずくめで笑ってしまいました。
収監されて早々、ブレイクは白人至上主義グループの一員ジェシー・ヴェンチュラとの剣闘を行います。映画を見ていない方からすると「刑務所で剣闘?」と不思議に思われるかもしれませんが、本当にそういう場面があるのです。
ラッセル・マルケイ監督の代表作『ハイランダー 悪魔の戦士』(1985年)の如く、DIY精神あふれる甲冑と刀を身に着けるブレイクとヴェンチュラですが、囚人が容易に刃物を入手可能というワンダーランドぶりが凄かったです。
そしてブレイクはヴェンチュラに勝利するのみならず、最終的には刺し殺してしまうのですが、刑務所内で囚人一人が刺し殺されても特に騒ぎにならず、ブレイクも白人至上主義グループも特に調べられないという野放図加減。
また、ブレイクは脱獄後の身分偽装を見据えて歯の治療記録の入れ替えを行うのですが、囚人が出入り可能な場所に重要書類を置き、施錠すらされていないという管理体制のルーズさ。
いろいろとすごいものを見せていただき、ここで物語への関心はぐっと落ちました。
決着が付いた後のラストバトルの無駄さ加減
そんなユルイ刑務所なのでブレイクはアッサリと脱獄。しかも死を偽装したので社会的には透明人間となります。
そして憎きニックへの復讐を開始するのですが、ただ殺すだけではつまらないのでニックの社会的信用を落とすための各種工作を行います。
これを受けたニックはブレイクの仕業であると主張するのですが、「嘘つけ。ブレイクは死んだだろ」と取り付く島もありません。かくしてニックの名声は地に落ちるのですが、ここでのニックの逆転策はブレイクの生存を証明することにあります。
で、一計を講じたニックは公の場にブレイクをおびき出すことに成功し、ここで両者の決着はつくわけです。
にも関わらず、ここからラストバトルが始まるという無駄さ加減。すでに勝ったも同然なのだからニックはブレイクをほっときゃいいのに、なぜかリスクを冒してまで戦うのだからどちらも応援する気になれませんでした。
前述したハイランダーごっこもそうですが、純然たるサスペンスのシナリオに無理矢理アクションを付加しておかしくなったような気がします。
もうちょっとうまくアクションを絡めて欲しいところでした。