【駄作】シックス・デイ_予見性はあったが如何せんダサい(ネタバレあり・感想・解説)

SF・ファンタジー
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(2000年 アメリカ)
公開時にも鑑賞したのですが、動員力が急激に落ちていた頃のシュワの華の無さや、SF大作風の宣伝とは裏腹にやけに小さな舞台のドラマだったことから特に印象に残らず、17年以上も忘れ去っていました。再見しても感想は変わらず、時代遅れな脳筋映画に終わっています。

あらすじ

クローン技術が確立された未来。ヘリコプターパイロットのアダム(アーノルド・シュワルツェネッガー)が帰宅すると、別の自分が家族と共に誕生日を祝っていた。その光景を目撃してしまったアダムは謎の一団に襲われ、なぜ自分のクローンが作られたのか、なぜ自分が追われているのかを突き止めるための戦いを開始する。

スタッフ・キャスト

監督は『007/トゥモロー・ネバー・ダイ』のロジャー・スポティスウッド

1945年カナダ出身。編集技師として映画界でのキャリアをスタートさせ、『わらの犬』(1971年)や『ビリー・ザ・キッド/21才の生涯』 (1973年)などサム・ペキンパー作品を手掛けました。

ジェイミー・リー・カーティス主演のホラー映画『テラートレイン』(1981年)で監督デビュー後には、トム・ハンクス主演の『ターナー&フーチ/すてきな相棒』(1989年) 、メル・ギブソンとロバート・ダウニー・Jr.が共演した『エア★アメリカ』(1990年) 、シルベスター・スタローンがコメディに挑戦して爆死した『刑事ジョー/ママにお手あげ』(1992年) など、ジャンルを選ばぬ職人監督としてほとんど記憶に残らない映画を量産しました。

その後、何が起こったのか『007/トゥモロー・ネバー・ダイ』(1997年)の監督に抜擢され、1997年の世界興収で第4位という大ヒットを記録しました。

ただし『トゥモロー・ネバー・ダイ』は奇跡のヒットだったようで、その後はロクな映画を撮らないまま現在に至っています。

製作・主演はアーノルド・シュワルツェネッガー

1947年オーストリア出身。ありえない筋肉とありえないキャラクターがウケて80年代後半から90年代後半にかけての10年間はハリウッドの頂点に君臨していましたが、1997年に心臓弁の取り換え手術を受けて以降は状況が一変していました。

彼が出演するのは高コストのアクション大作が中心だったのですが、主演俳優が撮影の最中に死亡するリスクのある重度の疾患を抱えているとなったため、映画会社はシュワルツェネッガーの起用を忌避するようになっていたのです。

90年代末より大手スタジオで映画を撮れなくなったシュワルツェネッガーは新興スタジオでのプロジェクトに活路を見出しており、ビーコン・ピクチャーズが製作した『エンド・オブ・デイズ』(1999年)に続き、トライスター元会長のマイク・メダヴォイが新設したフェニックス・ピクチャーズが製作する本作に主演しました。

作品解説

興行的には苦戦した

本作は2000年11月17日に全米公開されたのですが、全米年間興行成績No.1を獲ることとなるロン・ハワード監督の『グリンチ』(2000年)と重なってしまったことや、アクション大作『チャーリーズ・エンジェル』(2000年)が3週目にして依然として好調だったこともあり、初登場5位という低調なスタートとなりました。

その後もランクを上げることはなく4週目にしてトップ10圏外へと弾き出され、全米トータルグロスは3460万ドルにとどまりました。

シュワルツェネッガー主演作としては『レッドブル』(1988年)以来の低い興行成績でしたが、『レッドブル』の製作費2900万ドルに対して本作の製作費は8500万ドルもかかっており、負け度合いは本作の方が深刻だったと言えます。

頼みの綱の世界マーケットでも振るわず、全世界トータルグロスは9608万ドルにとどまりました。シュワルツェネッガー主演作で世界興収が1億ドルを越えなかったのは、これまた『レッドブル』(1988年)以来のこととなります。

感想

テクノロジーの予見は正確

2018年現在の目で見て驚いたのが、車の自動運転技術や指紋認証の鍵、AIによる一部の職業の置き換えなど、その後実現した、もしくは実現しつつあるテクノロジーが複数登場していることです。

また従来のSF映画においてはクローン人間にオリジナルの個性や記憶をどう刷り込むのかという問題が存在していましたが、本作においてはシンコードという奇策により、オリジナルとまったく変わらない人間がクローン技術で再生されるという物語を作り上げています。

SFとしてはかなりよく考えられているのです。

なぜ『マイノリティ・リポート』になり損ねたのか

ではなぜ本作が、例えば2002年の『マイノリティ・リポート』(こちらもドローン、生態認証、VR、リターゲティング広告などを先取っていました)のような評価を受けられなかったのかと言うと、単にとてもダサかったからなのだと思います。

当時落ち目になりかけのシュワ主演というだけで真面目に見てもらえなかっただけでなく、テクノロジーの見せ方やデザインなどがまったく洗練されておらず、物凄いものを見せられているという気に当時は誰一人ならなかったのです。

またピンポン玉みたいのを両目に当てたシュワのどアップが本作のキービジュアルであり、これは子会社のトライスター・ピクチャーズが1990年に『トータル・リコール』を大ヒットさせた際、人体に影響を与える装置に繋がれたシュワの姿をキービジュアルにしたことに本作の配給を行ったコロンビア映画が倣ったものと思われるのですが、このダサいチラシを見て洗練されたSF映画が見られると思った観客は皆無でした。

繊細であるべき物語が脳筋映画に

またSF映画として全然面白くなかったという点も問題です。

人生を奪われた男の悲壮な物語かと思いきや、俺に似た俺じゃない奴が家にいる、しかも変な集団に襲われた。じゃあ力づくで問題解決しようという脳筋映画に成り下がっているために、この物語に本来あったと思われる哲学的なメッセージが綺麗サッパリなくなっています。

ラストも、オリジナルとクローンの二人でひとつの人生を生きることはできないことから、1名は南米へと旅立つというちょっと悲しい終わり方が脚本上は準備されているのですが、完成した映画は敵を倒した余韻で強引に終わってしまい、そうしたセンチメンタルな部分が完全に放棄されています。これはもったいないと感じました。

≪シュワルツェネッガー関連作品≫
【凡作】コナン・ザ・グレート_雰囲気は良いが面白くはない
【傑作】ターミネーター_どうしてこんなに面白いのか!
【傑作】コマンドー_人間の心を持ったパワフルな男
【駄作】ゴリラ_ノワールと爆破の相性の悪さ
【良作】プレデター_マンハントものの教科書的作品
【駄作】バトルランナー_薄っぺらなメディア批判とヌルいアクション
【良作】レッドブル_すべてが過剰で男らしい
【良作】トータル・リコール(1990年)_ディックらしさゼロだけど面白い
【良作】ターミネーター2_興奮と感動の嵐!ただしSF映画としては超テキトー
【凡作】ラスト・アクション・ヒーロー_金と人材が裏目に出ている
【凡作】トゥルーライズ_作り手が意図したほど楽しくはない
【凡作】イレイザー_見せ場の連続なのに手に汗握らない
【凡作】エンド・オブ・デイズ_サタンが間抜けすぎる
【駄作】シックス・デイ_予見性はあったが如何せんダサい
【駄作】コラテラル・ダメージ_社会派と娯楽の隙間に挟まった映画
【良作】ターミネーター3_ジョン・コナー外伝としては秀逸
【凡作】ターミネーター4_画だけは最高なんだけど…
【凡作】ターミネーター:新起動/ジェニシス_アイデアは凄いが演出悪すぎ
【凡作】ターミネーター:ニュー・フェイト_キャメロンがやってもダメだった

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コメント

  1. キャン より:

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    初めまして、キャンと申します。
    いつも楽しく読ませて頂いております。
    ちょうど僕が『シックス・デイ』を紹介したタイミングと同じ頃に書かれていたので、思わずコメントさせて頂きました。
    未来技術の予見の正確さというのは、見ている時は全く気付きませんでした。確かに今のリアルとかなり近い世界でしたね!
    ただそんなことより、やっぱり拭いきれないダサさばかりが先にたってしまって…。
    まあ、スタイリッシュなシュワちゃんなんてついぞ見たことはないですけどね!

  2. children-of-men より:

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    >キャンさん
    コメントいただき、ありがとうございます。
    キャンさんの6d評も拝見していましたが、愛ある擁護に「こういう見方もあるのか」と感心いたしました。
    この映画を初めて見た時に思い出したのがヴァン・ダムの『タイムコップ』で、あちらも一応はシド・ミードが関わってるのに絶妙なダサさ加減が漂っていたのですが、もしかしたら肉体派スターとSFガジェットの相性は死ぬほど悪いのかもしれませんね。