【駄作】ソルジャー・ゴールド_驚くべきショボさ(ネタバレあり・感想・解説)

その他
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(1994年 アメリカ)
射撃やフェンシングの名手であるペンタスロン選手を主人公にしたアクション映画という着想こそ良かったものの、予算や技術が不足していたためにプロvsプロの死闘が演出されておらず、どうにも気の抜けた作品に終わっています。駄作に彩られたドルフ・ラングレンのキャリアを象徴するような作品であり、彼のような逸材がいかに無駄遣いされてきたかを知ることのできる一作です。

なお、↓の劇場版ポスターのような髪を立てたドルがマシンガンを構えた画は本編に一切登場しないので、鑑賞にあたっては注意と広い心が必要です。

あらすじ

東ドイツのペンタスロン選手エリック・ブロガー(ドルフ・ラングレン)はソウルオリンピックで金メダルを獲得した後に、アメリカに亡命した。亡命の際に受けた銃弾が原因で選手生命を断たれたブロガーはアメリカで荒れた生活を送っていたが、勤務先の店主の励ましもあって、アトランタオリンピックに向けたトレーニングを開始する。

そんな矢先、東ドイツ時代のコーチだったハインリッヒ・ミューラー(デヴィッド・ソウル)がエリックへの復讐のためにアメリカへやってくる。

スタッフ・キャスト

監督・脚本は『ハード・トゥ・キル』のブルース・マルムース

1934年NY出身。作家・監督・俳優としてテレビや演劇界で実績を積み、CMディレクターとしても成功した後に、シルヴェスター・スタローンとルトガー・ハウアーが共演したスリラー『ナイトホークス』(1981年)で映画監督デビュー。スティーヴン・セガール主演の『ハード・トゥ・キル』(1990年)では全米No.1を獲得しました。

ただし実状は代打監督という色合いが強く、『ナイトホークス』の元の監督はベテランTVディレクターのゲイリー・ネルソンだったし、『ハード・トゥ・キル』の監督にはスタントコーディネーターのクレイグ・R・バクスリーが指名されていたのですが、断られたためにマルムースに鉢が回って来たという経緯があります。

製作・主演は人間核弾頭ドルフ・ラングレン

1957年スウェーデン出身。スウェーデン王立工科大学を経てフルブライト奨学金を得てマサチューセッツ工科大学に進んだという秀才。スウェーデン王立工科大学在学中に極真空手に入門し、全世界空手道選手権大会にスウェーデン代表として出場しました。

スウェーデン語の他に英語、ドイツ語、フランス語、日本語を使いこなし、少年期には音楽にも触れていて楽器のたしなみもある。加えてアメリカではモデルの仕事をしており、勉強も語学も音楽も格闘技もルックスもすべてイケるというスーパーマンぶりを披露しています。

そんな素晴らしい背景を持ちつつも、最終的に志したのが俳優業。当時の彼女のグレース・ジョーンズの伝手で『007/美しき獲物たち』(1985年)に端役で出演し、『ロッキー4/炎の友情』(1985年)のイワン・ドラゴ役でブレイク。

ただし80年代末から90年代初頭にかけて似たようなポジションにいたヴァンダムやセガールがメジャースタジオでの仕事をしていたのに対して、その時点での知名度が高かったはずのラングレンはニュー・ワールド・ピクチャーズやキャノン・フィルムズといった俗物系のインディーズスタジオの仕事からなかなか脱皮できず、キャリアは伸び悩んでいました。

そんな中で自ら製作に乗り出したのが本作でした。ラングレンにとっては、これでキャリアを変えてやるぜ!という思いのこもった一作だったのでしょう。

登場人物

  • エリック・ブロガー(ドルフ・ラングレン):ペンタスロンの東ドイツ代表選手であり、1988年のソウルオリンピックで金メダルを獲得した後にアメリカへ亡命した。亡命時に足に受けた銃弾のために選手生命を断たれ、アメリカでは荒れた生活を送っていたが、勤めるハンバーガー店店主クリースの励ましもあって、1996年のアトランタオリンピックに向けての特訓を開始した。
  • ジュリア・デイビス(レネー・コールマン):ペンタスロンのアメリカ代表選手としてソウルオリンピックに出場し、エリックの亡命にも立ち会った。亡命後のエリックと交際していたが、その荒れた生活に付き合い切れなくなり別れた。数年後、選手を引退して指導に回っていた時にエリックと再会し、エリックのトレーナーとなった。
  • ジョン・クリース(ロジャー・E・モーズリー):エリックが勤めるハンバーガー店の店主。愛想の悪いエリックに手を焼いていたが、彼が元金メダリストと知ると選手としての再起を促し、物心両面での面倒を見た。
  • ハインリッヒ・ミューラー(デヴィッド・ソウル):東ドイツの秘密警察シュタージの職員であり、ペンタスロン選手達のコーチ兼監視役だった。少年期のエリックの才能を見出した人物でもあり、エリックの亡命はキャリア面でも個人の心情面でも堪えた。東西ドイツ統一後にはネオナチのリーダーとなり、エリックの実父ルドルフを殺害。エリックへの復讐のために渡米した。

感想

ペンタスロンをモチーフにしたアクション映画

ペンタスロンとは近代五種競技とも呼ばれているオリンピック種目であり、その起源を軍事に持っています。

19世紀、ナポレオン時代のフランスで、敵陣を突っ切って自軍まで戦果を報告することを命令されたフランスの騎兵将校が、馬で敵陣に乗り込み(馬術)、途中の敵を銃と剣で討ち倒し(射撃・フェンシング)、川を泳いで渡り(水泳)、丘を越えて走りぬけた(ランニング / クロスカントリー)、という故事を元に、近代オリンピックの創立者であるクーベルタン男爵が古代ギリシアで行われていた古代五種(レスリング・円盤投・やり投・走幅跳・短距離走)になぞらえた近代五種として競技化を提案したのが始まりと言われる。1912年の第5回ストックホルムオリンピックにおいて種目に採用された。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%BF%91%E4%BB%A3%E4%BA%94%E7%A8%AE%E7%AB%B6%E6%8A%80

走ったり泳いだりの他に、射撃やフェンシングのスペシャリストでもあるペンタスロンの選手が主人公のアクション映画を作れば面白いんじゃないか。この発想は実に素晴らしかったと思います。

亡命したペンタスロンの元金メダリストに、別の選手を刺客としてぶつけてくる。プロvsプロの死闘がその企画意図だったのだろうと思います。見せ場の方向性としては、後の『ボーン・アイデンティティ』(2002年)みたいな映画になるはずだったのでしょう。

見せ場が壮絶にショボイ

そんな高い志だけはあったのですが、予算規模もスタッフの手腕も企画意図に追いついておらず、素人並みのドン臭いアクションに終始しています。

例えば、ランニング中のエリック(ドルフ・ラングレン)にチャリンコに乗った東ドイツの刺客が迫ってきて銃撃を受けそうになるのですが、敵は銃という飛び道具を持っているにも関わらずエリックの蹴りが届くギリギリの距離に迫るまで撃たなかったり、射撃の名手のはずなのに標的をかすりもしなかったりと、もうちょいやりようがあったんじゃないのと思います。

冒頭のソウルオリンピックは街のマラソン大会かと思うような会場だし、終盤に登場するドイツ大使館も政治的に重要な設備とは思えないほどの警備の手薄さ。

予算が少なくてどうしようもなかった部分もあるのでしょうが、『トゥルーライズ』『スピード』と同年の作品だとは思えないほど見せ場が洗練されておらず、ドルフ・ラングレンという素材も生きていません。

五輪選考会上での殴り合いも、町内の運動会での喧嘩にしか見えない
https://www.imdb.com/title/tt0110805/mediaviewer/rm2483827456

陰謀劇なのか私怨なのか中途半端

物語は亡命した選手エリック(ドルフ・ラングレン)と、彼を追う元コーチで秘密警察のハインリッヒ(デヴィッド・ソウル)の因縁がメインとなります。

エリックにとってハインリッヒはスパルタ教育で少年期の自分を追い込んだ嫌いなコーチであり、亡命に協力してくれた仲間や実父を殺した仇でもあります。

他方、ハインリッヒの方はちょっと複雑で、看板選手の亡命は彼のキャリアを毀損した、その意味でエリックは憎むべき敵なのですが、同時にエリックに対するポジティブな意味での思い入れもあります。彼は少年期のエリックの才能を見出し、その潜在能力を引き出して金メダル獲得にまで持ち上げたという自負があるのです。

エリックはそう捉えていなかったが、ハインリッヒはエリックに対して育ての親のような感覚を持っており、ここまで育て上げてやった俺に後ろ足で砂をかけるようなことをしやがってという憤りを持っています。

ここに私怨vs私怨の第2ラウンドがアメリカを舞台に始まるべきだったのですが、ネオナチがドイツ大使館を襲撃するという別プロジェクトを絡めてしまったせいで、どうにもピントの合わない作品になっています。

製作規模的にも大使館を舞台にした陰謀論的な部分は捌ききれていなかったし、エリックとハインリッヒの私怨一本で突っ切った方が面白くなったのではないでしょうか。

≪ドルフ・ラングレン出演作品≫
ロッキー4/炎の友情【凡作】良いのはアクションだけ
リトルトウキョー殺人課【駄作】彼女を見捨てて修行するドル
ソルジャー・ゴールド【駄作】驚くべきショボさ
スナイパー/狙撃【駄作】支離滅裂すぎてつまらない
ユニバーサル・ソルジャー【良作】デラックスなB級アクション
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